あなたのキレイをお手伝い

Ⅰ.クリーニング業と共同化(これまでの経緯)

1.共同化衰退の要因

クリーニング業界における共同化、協業化は自家ドライ機が全面的に普及する昭和40年代後半までの間、業界を挙げて推進され、その当時に数多くの協同組合、協業組合が設立された。しかし、今日まで存続している協同組合、協業組合は多くはない。その多くは失敗しているのである。その理由として次の諸点が挙げられている。

(1)共同施設を設置しても、自家ドライ機の普及で組合員(協同組合参加者)自身が共同施設を利用しなくなってしまった。

(2)繁忙期のみ共同施設を利用し、年間を通じての共同施設の平均稼働率、必要コストを維持できなくなってしまった。

(3)組合員間の相互扶助精神が薄れ、運営が主導権争いになってしまった。

などである。要するに、自工場で処理が可能となったことから、仕事が大量にある繁忙期以外は共同施設を利用しなくなったことと、個々の事業所の経営を優先したため、衰退していったのである。

これは、逆に今日も継続している協同組合の多くが、自工場の対象設備(ランドリー機、ドライ機等)を撤去することが加入要件になっていることからも裏付けられる。

こうした経緯をたどった結果、クリーニング業界には「共同化」に対するアレルギー反応が強く根付いているといわれる。今回行った組合員へのアンケート調査でも「共同事業(広報活動を除く)」に対する期待は僅か7%程度にとどまっている。

2.共同化(工場)を成功させるポイント

過去の失敗例を参考に、従来型の共同工場を成功させるポイントを整理すると次の通りである。

(1)事業に参加するためには、共同工場に設置する機器類を自店舗から撤去すること

→当該機器が自店にあるとどうしても使い分けてしまう。共同工場を有効に利用してもらうためには必須要件といえる。

(2)相互扶助精神が共同化を支えるうえで重要

→出資の大小にかかわらず、組合員(出資者)が平等の権利、発言力を持つこと。また、相互扶助精神がベースとなるので、参加メンバー(組合員)は信頼関係のあるものに絞るべき

(3)核となる人物の存在/組合機能の有効活用

→平等であることが前提であるが、奉公の精神で事業運営に取り組むリーダーシップを持つ人物の存在が必要となる。場合によっては生活衛生同業組合が、その機能を担うことも可能。

(4)将来に向けた明確な目的意識を持つこと

→共同化と同時進行で自店の経営充実を図る。作業量が減ることを踏まえ、その分営業面の充実・拡充を図ることや利用者擁護対策、地域社会への貢献を充実させるなど、自店の取り組む方向性や目的を明確に打ち出すことで共同工場の利用の必然性も高まる。

(5)共同工場の経営(運営)に積極的にたずさわること

→自店のみならず、共同工場の経営にも積極的に関与し、余力があれば員外利用者からの外注を取り込んだり、クリーニング業者以外との連携も検討するなどして、共同工場の発展にも寄与すべきである。

Ⅱ.共同化を見直すべき背景(経営環境)

現在は自家ドライ機は当たり前に普及し、また過去の失敗に対するジレンマもあって「共同化」については大半の事業者は否定的な反応を示している。

しかし、その一方でクリーニング業の特性(地域密着性など)を活かしながら経営を継続・発展させていくためには改めて「共同化」を考えなければならない幾つかの大きな課題に直面している。一つは「売上げの低迷」であり、他に「高齢化・後継者不在」「労働力不足」「環境規制の強化」「建築基準法問題」などがある。以下にそのポイントを記す。

1.売上げの低迷

クリーニング需要は平成4年をピークに20年連続で減少を続けており、直近ではすでにピーク時の需要から半減している。理由としては、就労人口の減少、カジュアル化の進展、景気低迷による影響、原油価格高騰など様々指摘されているが、いずれにしても個々の経営努力だけでは対応困難な事由も多い。

需要の減少は当然経営悪化に直結しており、後述の通り環境規制等への適合のための機械設備等の更新・改善を求められているが、そのための設備投資資金が捻出できなくなってきている。また例え機械を更新したとしても売上げ低迷下では短期間での投資額回収が難しくなってきている。

2.環境規制の強化

環境に対する意識は地球規模で高まってきており、各種規制も年々強化されている。現在使用されている機器類も、規制が強化されるごとに新規の対応機器への買い替え、付帯機器の設置等が求められている。前述の通り、売上げ低迷から設備投資費用の捻出が困難化している中では規制強化が引き金となって廃業を選択するケースも増加しつつある。

3.建築基準法問題

クリーニング所は、建築基準法で用途地域制限が設けられており、現在住居地域、商業地域などで営業している事業者は一定の要件を満たした施設、設備への改善が求められている。設備を改善するのも困難な状況に加え、立地条件については移転せざるを得ない場合も想定されるが、地域に根付いてこそのクリーニング業にとってそれは致命的な問題となりつつある。

このような「環境」「安全安心」に対するハードルは上がれこそすれ下がる可能性が低いこと、売上げの大幅な上昇に転換する見通しが立たない現状を踏まえると、多くの規制対象となっているドライ機を撤去するという方法は、地域密着性を損なわず、従来の場所で事業を継続発展させていくための今後のクリーニング経営の一つの選択肢となり得る。

ドライ機が担う「洗い」の部分を共同化、あるいは外注する経営スタイルを真剣に検討する時機なのではないだろうか。

Ⅲ.「マシーンリング」という考え方

1.マシーンリングとは

平成11年に第3次クリーニング業界ビジョンである「クリーンライフビジョン21」で提唱された経営改善のための「6C」の1つ、Co-operetion(協同・協調性)を具現化させるための方策として全国クリーニング生活衛生同業組合連合会が発表したマシーンリング・システムの考え方。

これは、環境規制が年々強化されていることから、いずれ市中でのドライ機の使用が困難となる可能性が強いことと、後継者難を含めた人手不足状態である現状等から、近い将来「洗い」の部分の共同化(製販分離)が必要となるとの仮説から検討が進められたもの。また、従来の共同出資による共同化で過去に失敗した経緯を持つクリーニング業界が、そのアレルギー反応を払しょくする新しい方式であることも前提の一つであった。そうした中で誕生したのがマシーンリング・システムである。

2.基本的考え方

「マシーンリング」。耳慣れない言葉であるが、元々はドイツの農業分野で提唱され、導入されたシステムの呼称である。畑を耕すのに使用する耕うん機や収穫に用いる刈り取り機などの農耕用機械を各農家がそれぞれ保有するのではなく、財力の高い農家のみが保有し、近隣の農家はその機械を一定の条件のもと借りて使用する、という考え方である。これは、各農地の作業時期が少しずつずれていることと機械の稼働期間が極端に少ないにもかかわらず各農家が保有する非効率性、設備の費用対効果の是正を図ることから普及していったもので、1つの農業用機械が各農地を回って使用されていくことからマシーンリングと呼ばれるようになった。

クリーニング機器は農耕用機械のように各工場を回って使用することはできないが、一つの機械を中心に近隣の事業者が相互利用しあうという意味では発想は同じである。これまでの共同工場に設置する機械は『(共同)所有』であったのに対し、マシーンリングの考え方は『(共同)利用』である。つまり、母体となるクリーニング工場以外は設備投資費用の分担(出資)は必要なく、一定の契約条件のもと利用しあうという考え方なのだ。

こうして読んでいると難しく捉えてしまうかもしれないが、要するに普段、特殊品などを外注しているホールセールや下請け業者との取引を想定してもらえれば判りやすいと思う。これを組合や支部、近隣の仲間同士で相互扶助し合おうというのがマシーンリングの基本理念であるといえる。

 

3.マシーンリングのメリット

昭和30年代後半から自家ドライが普及しだしてから約50年。いまでは逆に自家ドライ機を有していることで経営負担が増大してきている現状がある。

1つには前述のとおり、環境規制が年々強化されてきていること。そして平成22年に顕在化した建築基準法第48条をめぐる問題。これらについては業界側の言い分もあるが、今の世の中、「環境」と「安全」に関しては規制は緩和されるどころか強化される一方である。住居系地域や商業系地域にあってこそのクリーニング業が、そこで商売を続けるための足かせになっているのが実はドライ機になりつつある現実をどう考えるべきなのか。規制に見合う設備改善を行っても数年後には更に規制が強化される可能性も否定できない。

そもそも、いまドライ機は1日にどのくらい稼働しているだろうか。たとえば稼働率が1日当たり30%程度であるのであれば、残りの7割の時間帯を近隣の同業者に貸与または処理代行することで稼働率は高まり設備費用の回収も早まる。一方、利用する側も老朽化したドライ設備の買い替えや各種規制への対応に悩む必要がなくなるなどの相互メリットが生まれる。いまはドライ機を例に取り上げたが、ドライ機に限らず他の設備であっても同じことが言える。また、1つの工場がすべての設備を保有する必要もなく、例えばA店がドライ機、B店が水洗機というように、保有する機械をシェア(分担)しあうことで様々なバリエーションが生まれてくるのである。

マシーンリング 導入の主なメリット・デメリット(ドライ機の場合)

メリット

デメリット

ドライ機

利用者

○ドライ機の設備投資は不要

○自工場に係る環境規制や消防法、廃棄物処理法等の多くの制限が解除される

○住宅・商業地域での継続が容易になる

○溶剤等関連資材の購入費用は不要

○コスト減少分利幅が増え、作業時間を営業に転換できる

○時間的制約を受け、クイックサービスが困難になるなど自由な作業時間設定ができない

○ソープ濃度など溶剤管理が自分ではできなくなる

ドライ機

提供者

○機械の空き時間を貸与することでドライ機の稼働率が高まり投資費用の回収が早まる

○利用料(委託費)収入が得られる

○機械自体を貸与する場合、利用順番等、各種調整事項

 

4.万が一の時にも

後述の通り、東日本大震災で甚大な津波被害を受けた岩手県沿岸部で復興支援仮設クリーニング工場が設置されたが、ここでもマシーンリングの考え方が前提となっている。これは津波により店舗・工場を失った被災事業者が、集配により集めてきた品物を一定の利用料金のもと相互利用できる工場で、洗い終わった品物はそれぞれが仕上げてお客様にお返しすることができる施設である。

実はそもそもマシーンリングが生まれるきっかけとなったのは阪神・淡路大震災発生後における兵庫県組合の連携である。この時も震災により店舗・工場を失った組合員が仮設店舗を再開した際に、近隣の被害を免れた組合員が洗いの部分を引き受けて営業再開を後押しした経緯がある。また、震災に限らず、例えばご主人が入院したりして作業が滞ってしまったときなど近隣の組合員が手伝ってあげているというのもよく耳にすることである。

マシーンリングは、こうした相互扶助の延長線上にある考え方だし、組合組織だからこそ具現化可能な、新しい共同化のスタイルなのである。

Ⅳ.まとめ(提言)

1.共同化の必要性

(1)クリーニング業界の特性からみた必要性

・クリーニング業者は比較的小規模、零細性の高い業種であり、資本力や人的資源が脆弱であることは否めない。さらに人口減少傾向が続き、クリーニング市場の縮小が懸念される中、個人事業が単独で設備投資等を行う時代は過ぎ去ったものと考えられる。一方、規模の拡大や効率性、省力化、安全性などを追及していくことは消費者の利便性向上や負担減など経済的・社会的責任の観点からみても避けて通れない。

・しかし、過去において組合や団体、業界が真っ先に取り組んできたものに「共同化」がある。共同化の特徴には「平等である」という理念が先にあるが、この理念が逆に足かせになり事業運営に支障を来たした例も少なくない。また、共同化は利用者同士の良好な人間関係が前提であり、平等と相まって共同化成立の土台づくりに難しさがあった。この欠点を補った新しいシステムの構築が待たれるが、その一つとして「マシーンリング」(共同利用工場)という新しい手法が浮かび上がってきた。共同して事業を行うのではなく、所有者の設備等を利用するという新しい概念である。

(2)差し迫った状況からの必要性

・クリーニング業界の当面の課題として「後継者対策」、「施設の老朽化対策」、「建築基準法抵触対策」などが挙げられるが、これらの課題は刻一刻と迫りつつ、一方においては解決には時間を要するという問題が横たわっている。組合員の中には「できれば少しでも長く経営を続けたい」という希望があるのは明白であり、希望に沿う形を構築する必要がある。しかし、事業所にとって負担が少なく、さらに自らの自由な意思で廃業等の判断できるシステムであるならば時代に合致しているが、このような理想的な仕組みの構築は難しい。しかし、現時点でこの理想形に最も近いのが「マシーンリング」であることも認識する必要がある。

 

2.具体的な共同化と課題

(1)代行処理業務について

・ある組合員に突発的な事態が起き事業継続が困難になった場合、受付業務、クリーニング処理業務、包装・保管業務、集配業務、集金業務などを仲間である組合員等が手助け、支援していくケースが代行処理業務である。アンケート調査では36.7%の事業所が経験しており、経験がなくてもそういう事態になれば当然対応するとする回答が16.4%あった。このことは仕組みを明確にすることでスムーズな活用の展開ができるような準備が必要であることを意味している。ただし、この支援ができるのは各組合員が自前の店舗と設備をそれぞれ所有しているからであり、相互扶助の精神が前提となる。この代行処理業務をさらに進めると、組合員それぞれが自前の店舗や設備を所有せず、共同で設備を整えて運営したり、あるいは初めから特定者の設備等を利用するという前提でのシステム構築が考えられる。具体的には共同化やマシーンリングの考え方である。

・代行処理についてはいくつかのパターンが考えられる。

1)個別処理業務支援パターン

クリーニング処理の一部だけを支援するパターンで例えばドライ処理のみの支援、包装・保管のみの支援、集配業務のみの支援などが挙げられる。

2)トータル業務支援パターン

集配業務以外などクリーニング業務の直接顧客との接触業務以外はすべ支援してもらうというタイプである。

3)弱点カバー支援パターン(発展系)

個別事業所の弱点を他の同業者がカバー(支援)し、得意分野は自社で行うなどして他社との差別化をはかるタイプである。

4)効率追求型パターン(発展系)

投資採算性などを重視し、高価格の設備等は自ら行なわずに所有事業所に支援をしてもらうパターンである。

 

(2)マシーンリングについて

・前述したように代行処理の発展系にマシーンリングという考え方がある。従来、組合活動の最も大きなメリットっとして共同化事業があり、一個人事業者では資金的、人的に手が届かない高価な設備投資や大量の雇用確保を共同の力によって解決しようとしたものであり、成功した当時の背景には高度成長期、クリーニング機器の高価格などの諸事情があった。そして共同化は効率性、同一品質、大量処理などのメリットを享受したものである。

・消費者の多様化・個性化、競争の激化、高付加価値化、高品質化など同業他社との差別化として技術力やサービス力で違いを出そうとしている時代では、同一品質、大量処理など共同化の考え方ではむしろ逆行することになる。そこで投資等は低負担でいながら技術力やサービス力での差別化が容易となる仕組みが必要となってくる。

・マシーンリングの最も大きな特徴は、施設や機械の「共同所有」ではなく「共同利用する」という点である。所有者は特定の個人事業者、あるいは複数の事業者、または関連団体など様々なパターンが考えられるが、利用者は対価を払って利用するという点に特徴がある。この仕組みが成り立つ前提として次の点が考えられる。

1)所有者の設備等の償却(投資採算性)が可能なこと

2)利用者の利用料金が自ら投資するよりも低額である

3)利用に際し利用者の技術力やサービス力など付加価値が自由に発揮できる仕組みである

4)利用条件に多くの制限(資格、利用期間、過大な加盟料など)を設けないこと

 

(3)共同化にあたっての留意事項

・共同化を進めるにあたって下記に留意する必要がある。

1)代行処理

A. 相互扶助の精神が理解されていること

B. 突発的事態に対する対処法と考えること(継続的に行う場合はマシーンリングの考え方に移行)

C. 事前に仕組みや対応策などを決めておくこと(マニュアル化)

D. 強制的ではなくボランティア的な助け合いの活動とし、参加可能者を登録しておくこと

E. 活動に際しての指揮・命令者(リーダー)や連絡先(場所)を明確にしておくこと

F. 目的の第一は相互扶助であり、採算など考え方は第二であることを理解すること

G. この仕組み自体を事業として成り立たせるのは難しく、その場合はマシーンリングに移行する

2)マシーンリング

A. 一定地域の範囲内での利用者とすること(移動時間の効率性の観点から)

B. 利用者は仕組みやメリット・デメリットを十分に理解していること

C. 利用者の技術などが発揮しやすい設備であること

D. 複数の利用者があることから利用に際してマニュアル等を整備すること

E. 需要があることを踏まえ(建築基準法の抵触、後継者難、設備等の老朽化など)、組合等で実証実験を行い、ノウハウ等の蓄積や問題点などを明確にしておくこと

F. 設置者、利用者とも採算性を十分に検討して始めること(最終的には事業として成り立たなければならない)

G. 利用者の途中退会も考慮し、次なる予備軍の準備もしておこと(あるいは設置者自らの事業拡大も考慮して)

 

3.今後の方向性

・今回の調査、検討を通じて、組合員の今後の方向性として「製販分離(=部分共同化)」が一つの有効な手段であることは確認できた。また普及講習会を通じて、その考え方についても組合員から一定の理解を得ることはできた。

・代行処理については相互扶助という組合精神に則った事業であり、既に実例もあることから埼玉県川口支部の事例等を参考に組合が一定のモデルを提示することでシステム化はそう難しくなく、早期に実用化できる可能性は高い。

・一方、マシーンリングは相互扶助精神の延長線上にはあるが、実現化までには未だ多くのハードルが存在する。一定の契約に基づきビジネスライクに徹するとともに当事者間だけでなく客観的にマネジメントできる第三者が必要と思われる(当然、組合がその機能を持つことが望ましい)。

・いずれにしても、今回の提言は理念(ビジョン)を提示しているところに留まっており、実現化に向けては更なる検討やモデルケースとなる実証実験の実施、組合員の更なる理解促進機会の提供等が必要である。

・組合としても鋭意取り組んでいくが、引き続き関係各機関からの支援(助成)、協力をお願いするところである。